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砂漠の夜、冬の星、中原中也 [詩]

夜も更けた。
山間を走る電車の音が、踏切のカンカンいう音が、今夜も遠くに聞こえる。静かな、地球の夜だ。

夜といえば、タツオ君が最近、うつ病の苦しみの中で書いた詩が、ここにある。自らの命を絶ちたいと思ったことがある人なら、きっとわかる詩だろう。

「砂漠の夜」

灼熱の昼が過ぎると
極寒の夜が

すべてが乾ききった
干からびたミイラの国で
凍えて眠るのは
なんて終わりな気分だろう

そしてすべてが異なる世界が
目の前の辛辣の薔薇を引き裂いて
いよいよたちあらわれるとき
静かな春が
涼しげな夏が
眩しい秋が
やわらかな冬が
さもおかしそうに
手をつないで
やってくる
四つの歌を歌いながら
そして僕は目を閉じて
聞くだろう

ゲームセット

梟が鳴き
雨音が風にまぎれ
僕の心臓が高鳴った


タツオ君の、新しい平和な世界への、あるいは肉体のない状態への憧憬が表現されたものだ。
こんな詩もある。


「冬の星」

凍った空に、氷の粒が
熱く輝いている
あなた方は先生だ
砂漠では
何もないけれど
あなた方がいる
だから僕は
砂漠に行って
そこで死んでもいい
あなた方が見ているところなら
きっと間違いはないのだから
いつまでもあなた方は
そこにいてくれるだろうから
あなた方は
先に行った人たちで
僕はあなた方の息子です
あなた方は氷の粒だけど、
あなた方は熱源だ
あなた方とともに
これからもありたい
死してのちも
あなた方といっしょに
僕は
ありたい

これなどもっと具体的に死を語っている。しかしここでも彼は望みを捨ててはいない。星に助けをもとめている。星に我々がいることを理解している。このように求められては、地球担当の僕としては、来ないわけにはゆかなかった。
「求めよ、さらば与えられん」という言葉の意味は、このような呼応関係のことなのだ。

20世紀初頭の人だが、タツオ君のような「星の子」だった、中原中也という地球人は次のように言っている。

理由がどうであれ、人がなんと謂へ
悲しみが自分であり、自分が悲しみとなった時、
人は思ひだすだらう、その白けた面の上に
涙と微笑を浮べながら、聖人たちの古い言葉を

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コメント 1

日々季

はじめまして。
中原中也さんのことは実はそんなによく知らないのですが
宇宙猫ピーチ君に魅かれて読者にならせていただきました♪
ワクワク心が躍るようなブログですね!(*^^*)
こんなふうな文章が書けたらいいなって、文章を書くのが苦手な私は思っています。
これからも楽しみに読ませていただきますね~♪
(コメントはあまり書かないかもしれませんが、よろしくお願いいたします。(*^^*))



by 日々季 (2009-02-15 20:55) 

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