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睡眠、肉体、魂 [絵画作品紹介]

長い間雨が降った。晴れてきてもそれはやまず、一種異様な光景をつくり出した。雲の切れ間から光が射し、放射状のスポットライトのように山里を照らした。照らされた場所はまるで、祝福を受けた約束の地のように、安心しきった面持ちで輝いていた。暖かい雨に打たれながら、宇宙科学研究所の庭に立って山々を眺めていると、時折、小鳥たちがさえずった。

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宇宙科学研究所にある小さな一人掛けのソファが、僕のベッドだ。研究所に戻ってから、ついさっきまで僕は眠り続けた。その間肉体は硬直して動かず、サキちゃんやサトくんは、僕が死んだのではないかと囁き合っていた。タツオ君が、僕の魂が故郷へ帰っているだけなのだと、二人に説明したらしい。眠りは単に肉体が眠るのであって、魂には睡眠というものはない。むしろ睡眠は魂にとっては解放だ。そして死とは、そのもっと長いものであり、二度と同じ肉体には戻れないというだけの違いがあるだけだ。

タツオ君は一年くらい前だったか、まだマーカバも持っていなかったころ、体外離脱をしたまま戻れなくなってしまったことがあった。いや、正確には体外離脱して過去の自分の肉体に戻ってしまったのである。体を離れた魂は、時間の制約を失う。別の言い方をすると、時間の束縛から自由になるのだとも言える。すると、本人の意思がどうであれ、時間をスライドしていってしまうこともよくあることだ。タツオ君の場合、15歳くらいの、ちょうど頻繁に肉体から離れだした頃の、ちょうどお留守だった自分の体に戻ってしまったのだ。目が覚めてもはじめは気づかなかったという。なぜならそこは自分の暮らしていた部屋で、自分のベッドの上だったからである。だが、しばらくして妙な事に気がついて怖くなったらしい。ベッドの位置が違う、部屋に置いてあるはずのものがない、居間のほうから死んだはずの両親の声が聞こえてくる……。「昔の体に戻ってしまった!」事態に気づいたタツオ君は、戻らなければと焦りだした。「僕がこの体に居すわってしまったら、少年のころの僕の魂はどこへ帰ったらいいのだ?」すると急にひどい眠気が襲って来て、タツオ君はベッドに倒れこんだ。その眠気は尋常ではなく、とても抵抗しきれるものではなかった。タツオ君は眠りに落ちた。それと同時に、もとのタツオ君の肉体に目覚めることができたのだという。

このように、睡眠が魂を解放するのだ。みなさんは、睡眠は心身を休めるためのものだと思っていないだろうか?だが実際には、肉体は文字通り休むが、魂は解放されるため、より活発に飛びまわれるのである。魂が自由を獲得するのだ。これは魂にとって最大の喜びだ。しかし、生きている以上はまた肉体に戻らなければならない。だからこそ、眠りから覚めた時に一種のどうしようもない絶望感が伴うのである。また、肉体の中にあって魂を解放する方法もある。しかし、長くなるからその話はまたの機会にしよう。

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エリザベート

・・・だから、思いがけない“夢”が記憶に残っているのですね。。 この車はどちらに進むのだろう?? 早く黒い雨雲の下から抜け出て欲しいですね。。
by エリザベート (2009-05-09 15:50) 

peach

★エリザベートさんありがとうございます。
この絵はタツオ君の20歳くらいのころの作品で、めずらしく手元に残っていた小品です。
by peach (2009-05-09 21:25) 

yasumi

わたしはほとんど夢を覚えていないので
眠っている間に、自分がどこに行っているのか全くわかりません^^;
タツオ君の体験は、すごいですね。
ちょっとだけなら過去の家に帰ってみたいな、と思いました。
by yasumi (2009-05-11 00:16) 

peach

★yasumiさん、ありがとうございます。
夢を覚えている必要は全くありません。むしろ夢を見ない人ほど、満たされている可能性があります。ただ奇妙な夢は目覚めた後に余韻を残すものですね。
by peach (2009-05-13 23:11) 

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