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暗黒の二年間 3 [音楽]

タツオ君は、新しい作品が生まれてくることを強烈に予感し、またそれが徐々に形になっているため、その他のことが全て雑事にしか感じられないようになっていた。
「無意味だ───」
彼が最近よく呟いている言葉だ。と言っても心の中で、なのだが。
会社に行くことはまさに苦痛以外の何物でもなくなっていた。怠け心ではない。創造の泉が涌き出るとき、その流れは朝の目覚まし時計の滑稽なデジタル音によってかき消されるべきものではない。なぜならそれこそが愛と呼べる唯一のものなのだから。
束縛は愛を殺す。そして現在のところ、世界はそのように出来ている───。



ロザリオにはまだ正式な返答を返していない。しかし状況は緊迫している。

僕はその晩夢を見た───。

タツオ君がモノクロームの街路を歩いてくるのがみえた。人ごみをかき分けるようにして。
しかし近づいてくるタツオ君の頭上1m足らずのところに、浮かぶように何の支えもなく、日本刀がぶら下がっているのだ。
「タツオくん、上を見ろ!」僕は叫んだ。
タツオ君が見上げると、日本刀は垂直方向にゆっくりと上下し始めた。
「ちくしょう、何なんだ、これは!」タツオ君が僕の方へ、両腕をクロスさせるようにして頭を被いながら逃げてきた。それでも日本刀はタツオ君の真上で垂直をたもったままぴたりとついてくる。だがほどなく僕は気づいた。同じものが僕の真上にもあるのだ。そしてさらに同じく、ゆっくりとした上下運動を行っているのだ。
僕らは走って海が見えるほうへ逃げた。港まで200m程も走ると息が切れて、もう走れなかった。
「だめだ、逃げられないよ」
僕がそういった瞬間、今まで僕らの頭上で空中に浮いていたと思われた刀の柄を、だれかの手が握っているのが見えたのだ。その手に続いて腕、肩、体、顔が現われた。そして良く見るとその顔には見覚えがあることが分かった。
「ロザリオ、まさか君が…」
ロザリオは二本の刀を持ったまま、何も言わず僕とタツオ君を見つめていた……。
僕は急にめまいと眠気に襲われた。タツオ君が僕の名を呼ぶ声が、海風と、港を出る船の警笛の音に混ざって聞こえてくるが、それもだんだん小さくなっていった。完全に意識を失う瞬間、2本の刀を振りかざしたロザリオが、ニヤリと笑ったような気がした。

いやな夢だった。しかも体はいやな汗にまみれている。しかし僕は立ち上がり、タツオ君が早朝の制作を行っているであろう離れのアトリエ、「宇宙科学研究所」へ向かった……。

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