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暗黒の二年間 21 [音楽]

不二洞からほど近い、同じ上野村内に、「全国郷土玩具館」というのがあった。タツオ君たちに予備知識はなかったが、随所に看板が出ていたので、それを頼りに車を走らせてみると、それは通りの右手にあった。館内はひっそりとしていていたが、隣の家屋でおもちゃ作りのワークショップを行っている、職員らしい人に声をかけて見ると、喜んで案内してくれた。中には大変珍しい郷土のおもちゃが、無数に展示してあった。その日はほとんど貸し切り状態で、タツオ君はしきりに職員に玩具についての質問をした。誰のコレクションか、とか、施設は公立なのか、といった内容にまで及んでくると、だんだん話も盛り上がってきて、すっかり子供たちのことを忘れてしまっていた。



しばらく話に夢中になりながら、館内を歩いていると、
「あれを見てください」と職員が指差した。
見るとひょっとこの仮面をかぶったサキちゃんが、ガニ股になってどじょうすくいを踊っているのを、サトくんが腹を抱えて大爆笑しながら見ているのだった。
「どうやら、気に入ってもらえたようですね」職員は笑った。
「いや、お恥ずかしい。あまり自由に育て過ぎたもので…」タツオ君は頭をかいた。
「おや、こんどはおかめになりましたよ」
見ると確かに今度はおかめの顔をしたサキちゃんが、相も変わらずどじょうをすくっている。サトくんはすでに床に転がって、痙攣するように笑いこけている。
「ほら、だめだろ。いたずらしたら」さすがのタツオ君もあきれ顔で言った。
「いいんですよ。あれはああやって遊ぶために、あそこに置いてあるんですから。それよりお嬢さんを写真に撮っておいてください。きっと結婚式のとき受けますよ」
(サキの結婚式…おれはその時、そこにいるのだろうか、それともいないのだろうか…)
タツオ君は頭の中に黒いもやがかかったように、それ以上考えることも、想像することもできなくなってしまった。

タツオ君は丁寧な案内をしてくれた職員に礼を言いながら、
「この辺で、他に面白い所ってありますか?」と尋ねてみた。
「そうですね、先に行けば釣り堀がありますが、まあ釣りはどこでもできますからね。せっかく埼玉からいらしたのでしたら、是非帰りに神流町の恐竜センターに寄ってみてください。あそこは実際に日本で初めて恐竜の足跡の化石が出たために、このあたりには場違いなくらい立派な施設になってるんですよ。」

タツオ君は玩具館の職員のアドバイスに従って、来た道を引き返して行った。まだまだ陽は高い。イベントはこれからなのだ…。そう思っていた。

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haku

娘の結婚式...
普段考えてないですが、タツオ君でなくても、
人から言われるとちょっと感傷的になっちゃいますね ^^;
by haku (2011-08-14 14:30) 

peach

★hakuさん、ありがとうございます。
娘。実際今うちの娘は身長は僕を超えそうで、ソフトボール部で
まっ黒けに焼けています。こいつ絶対嫁行かんだろーなーと、
高をくくっている始末。
(あ、これはpeachになりすまして語っている作者の話です。
作中の黒猫エイリアンに子供はありません、念のため。)

by peach (2011-08-15 05:19) 

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