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暗黒の二年間 27 [音楽]

そして2009年の秋も盛りとなった十月のよく晴れた日に、僕たちはある親せき筋の結婚式に招かれていた。

[高画質で再生]

ジョージ・ウィンストン あこがれ 愛 [ネットショップ開業]

「はじめまして、高倉と申します」
披露宴の隣席に座っていた隣席の人物が、僕たちに話しかけてきた。朗々とした声の好人物に見えた。歳は僕たちよりも一回り上といったところか…。話好きな人物と見えて、僕たちは隣で退屈することがなかった。そして互いに飲み物を継ぎあったりしながら、職業の話になった。
「僕たちは…いや僕は、今はメーカー勤務で、購買をやってます。それ以前がスーパーのバイヤーだった関係もありまして」
そう僕たちは自身、つまりタツオ君の経歴を簡単にしゃべった。
「バイヤーってどこのスーパーだったんですか」
僕たちはタツオ君がかつて勤めていたスーパーの名前を言った。
「おお、すごい。一部上場企業じゃないですか。ウチも毎日のようにお世話になってます。品揃えがいいですよねえ、とくにお惣菜が最高においしい」
「ありがとうございます。…ってもう社員じゃないわけですけど」
「うん。それで今の会社?購買でしたっけ?」
「×××××ってお菓子知ってますか?」
「ええ、出先で良く買いますよ、美味しいですよね、あれのメーカーさんに?」
「ええ。でも長年仕入れ先に頭を下げられる仕事ばかりしていて、こんなんでいいのかと思っちゃいます」
「ハハハ…、いいじゃありませんか、頭を下げる方が普通で、そっちの方がずっと大変なんだから」
「すると高倉さんは何かの営業職をやられているので?」
「営業もやってました、というべきかな。印刷営業をしてました。その前は出版社でスポーツ雑誌のライターです。これが不規則でね」
「噂には聞きますが」
「結局時間があんまり不規則なのもあって、これはいかんな、と思い辞めました」
「で、その後で印刷営業をなさって、今は?」
「結局一人がいいなと思って、独立したんですよ。今はクライアントから印刷物の発注を受け、企画からデザイン、組版までする仕事です。本の装丁が多いかな」
「へえ、デザイナーさんだったんですね」
「ええ」
「実は僕も似たような仕事をしていた時期があるんですよ。これが最初の仕事らしい仕事だったんですが、広告会社で六年間、デザインやレイアウトをしてました」
「ええ?奇遇ですね!というか多才なのに驚きますね」
「いや、全部なりゆきですから」
ふと僕たちはあることに思い当った。携帯してきたデジカメの中に、タツオ君が描いた作品が沢山入っているのだった。これを目の前にいて気軽に話せるこのデザイナーに見せても良いのではないだろうか。タツオ君がそう考えているのが分かったので、僕も意識下から賛成していた(もちろんこの時点で僕の声はまだタツオ君に聞こえていない)。
「高倉さんに…ちょっと見てもらいたいものがあります」
僕たちはそう言って、手に持っていたデジカメのボタンを押しながら画像を送っていった。


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