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暗黒の二年間 31 [音楽]

気がつくとそこは、ここのところ住みなれた、タツオ君の意識下の小部屋だった。窓の外には草原が広がり、暖かな陽射しが照りつけ、爽やかな風が吹いていた。
(そうか…タツオ君の意識が再び開いたのだろうか?)
僕は部屋の中央にあるコンピュータのモニタを覗いた。これはタツオ君と僕との以前からの取り決めで、外界と交信するときはこの精密な仮想空間にあるパーソナルコンピュータを使うことになっていたためだ。
コンピュータからはタツオ君がマコさんと何かしゃべっている声が聞こえてきた。モニタにはタツオ君が見ているマコさんが映っている。
「タツオ君、タツオ君って叫ぶんですもの、気が狂ったのかと思ったわよ」
「すまないが、まったく覚えてないんだ…」
「あれだけ大騒ぎして、鼻血まで出して、覚えていないって言うの?」
「鼻血?」そう言ってタツオ君は自分の鼻をさわった。
やはり思ったとおりだった。僕が全面に出ている間の記憶が、タツオ君にはないのだ。
「それに私のことをマコさん、って呼んだわ。まるでピーチみたいに…」
「ピーチみたい…?」
タツオ君に事の顛末を説明してあげたかった。しかしそれが出来るのは少なくともあと一カ月を要する…。しかしタツオ君も、もしやウィークインが失敗したのではないだろうか、という不安を抱きはじめていたのだ…。



そして同種の異変は、僕たちの不安をよそにこの後も続いたのだった。

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