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暗黒の二年間 41 [音楽]

「総合して考えますと、ご主人はお仕事の疲れなどから強い抑うつ状態にあることは間違いありません。しかしその他、こうしてお話している限りは普通ですし、むしろ非常に常識的ですよね。ところが大きく記憶をなくしたという事実が、他人によって二度も指摘されている。そして奥さんのお話によれば、別人格が現われている。そしてその時の記憶がない…これらを総合して当てはまる病気があるんです…。『解離性同一性障害』といいます。二つ以上の人格が現われ、お互いにお互いを知らないという、少し難しい病気です。ただ私は奥さんのおっしゃる内容以外に、直接別人格が出ているところを確認できていませんので、ひとまず比較的汎用性のあるお薬を出しておきます。ストレスなどで疲れている精神が楽になり、今までよりも楽しい気分になるお薬です。それを服用してもらいながら、一週間ごとに様子を見て、より合った治療法を考えてゆきましょう。」
「はい」マコさんはタツオ君が医師の言う通りの病気であることを疑っていなかった。まさに医師に説明した通りのことが、実際目の前で起こったことに違いなかったからだ。そしてそれに対し医師が診断した病名なら、悔しいが、そうに違いない…。



医師は薬の服用方法などと、次回診察日の話などをしていたが、僕は気が気ではなかった。おそらく医師が処方する薬は、僕らのウォークインの待機状態に対して激烈なダメージを与えるであろうからだ。
タツオ君も医師の「別人格」という言葉に、我々の文字通り命を掛けた試みが失敗しつつあるのではないかという考えを深めていった。何故なら、別人格が現われるのはあと一カ月は先なのだ。タツオ君にはそう前もってよく説明してある。そしてその時には僕とタツオ君との間に、必ず明快な通信手段が確保されている筈だということも。従ってそれまでいかなる声が聞こえようとも、誤って僕の声だと認識してはならない、そこまで僕は言っていたのだ。ところが我々は一切交信しあえていない。タツオ君は、ウオークインの影響か否かは判然とせぬものの、自身に何らかの異常が生じているのだと感じていた。忙しさのため、またタツオ君を安心させるため、ウォークインのさまざまな失敗例について説明しておかなかったのは僕の落ち度だ。その結果タツオ君は精神病と診断され、それを信じている。タツオ君、聞こえるものなら聞いてくれ、もし本当にその通りなら、今までやって来たことは一体何だったのか?
しかしまた、ロザリオに責任を転嫁するつもりはないが、このデリケートな儀式を行うには、あまりに短期間に事を運び過ぎたのだ。そう思えてならなかった。そして当のロザリオには連絡が取れない。今や僕は現在自由にできる通信器官をもたないのだから。

僕は全ての状況を把握していながらどうすることも出来ない自分に苛立つばかりだった。


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DEBDYLAN

このアルバムいいですね♪

by DEBDYLAN (2011-09-13 02:15) 

peach

★DEBDYLANさん、ありがとうございます。
ファンでなくとも聞き入ってしまう、名曲ぞろいですよね!
原曲のイメージをサンタナ流に深めようとしている感じで、
ただのカバーアルバム以上のものがありますよね~。
by peach (2011-09-13 12:43) 

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