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暗黒の二年間 54 [音楽]

「それで?方法はどんなものなんだい?」タツオ君が尋ねた。ロザリオは窓際に置いてある天体望遠鏡をいじっていた。
「ああ、失礼。この前私がちゃんと身体を持って地球に存在していた時代には、こんな物はなかったのでね」
「天体望遠鏡がない頃って、いつだよ?」
「二千年くらい前」
「何をしていたんだよ、地球で」
「教えてあげたいが機密事項だ」
「だと思ったよ」


David Bowie - Cat People 投稿者 FerdaO

「さて、まずは準備からだが…、君ドラッグをやっているね?」
「向精神薬のことか」
「まずはそれをやめたまえ。君は病気ではない」
「病気じゃない?記憶がなくなったのも、別人格が現われたらしいのも、違うのか?」
「そうだ。実はあの時予定よりも一カ月以上も早くピーチ人格が表面に現れたのだ。当然合一は不完全のままだ。君とピーチは全く連携していなかった。」
「そんなに早く?なぜ?」
「デリケートな時期に君が無理をしすぎたせいだ。身も心も疲れきっているというのにいろいろがんばってくれたおかげで、君の魂そのものがときどき自己を閉ざしたのだ。そして主人を失った肉体の方は中にいたピーチを引っ張り出したというわけさ」
「自己を閉ざした覚えなんてないよ」
「それは君の記憶だろう?脳の記憶だ。だが魂とは記憶に残らない、つまり意識されないものでその多くが締められているのだ。その魂が自ら肉体を離脱してしまったのだよ」
「幽体離脱なら数え切れないほどしているが?」
「幽体と言っても二つあるのだよ。離脱して良い方と、離脱すると命に関わる方とね。君の場合両方が離脱してしまったわけで、肉体の神経系統がパニックを起こしたんだ」
「そうだったのか。では記憶がなくなった間は、あいつが僕の身体をあやつっていたんだね?」
「その通り。しかも君は病気だと思い込んでしまった。これは完全に私とピーチが予期しなかったことだ。そしてその薬…、感心しないな。君、それがピーチが落っこちた直接の原因だよ」
「…済まない」タツオ君はロザリオの目を見つめて詫びた。
「向精神薬に限ったことではないんだがね、多くの劇薬が肉体と魂の接続部分に損傷を与えるんだよ。ピーチはあのころようやく君の肉体に馴染んできたころだった、そこへ君が薬を服用したために接続が解除されてしまったのだ。かといって肉体の出口の方は君がふさいでいるから出られない、あとは深淵に落ちるしかなかったんだよ。これがウォークインに伴う真のリスクだったのだ。君に心配を掛けぬよう、そこまで説明しなかったのだ」
「わかった、薬は止めよう」
「そうしてくれ。だが同時に今度こそ会社は辞めてもらう」
「無理はしない、ってことだね」
「そう。それだけでなく、こんどは君が期間未定で気絶することになる。どのみち会社へは行けないんだ。会社に迷惑をかけたくないなら、今すぐ辞表を出してくれ」
「そんな大仕事なのか?」
「仕事自体は比較的単純なのだ。だが私が内蔵している幾何形体が問題なのだ」
「…どういうことだ?」

タツオ君は昨年のウォークイン前の緊張の日々を思い出していた。

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yu-papa

ご訪問くださり有り難うございます^^
コメントの最後の一行には、かなり勇気づけられました・・・
by yu-papa (2011-10-07 20:26) 

peach

★yu-papaさん、ありがとうございます。
精神は日常生活に欠かせない要素である一方で、それ自身が作り上げた迷宮の中をさまよいだすと、生きることと正反対のことを考えつくという弊害も持っています。今この瞬間を精一杯生きるのが、精神に邪魔をさせない秘訣かと思うわけです…。
by peach (2011-10-11 21:27) 

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