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暗黒の二年間 60 [音楽]

近年は地球の上空も宇宙船の長期停泊には向かない状態になった。地球人の探査網をくぐり抜けながらそれを行うのは困難だ。ロザリオは近くてもできるだけ見つかりにくいところを選び、母艦を木星の軌道付近に停泊させておいた。



小型の宇宙船は、質量をそのままに、ある程度まで大きさを変えることが出来る。猫一匹が乗って来た船内は狭すぎるので、ちょうどタツオ君の住まいと同じくらいの広さに居住スペースを変形拡張した。といっても全自動で動く船内は機械などがむき出しになっているところはないから、全部が居住スペースのように感じられるのだが。一応前方上部のリビングをコックピットということにして、ソファーとテーブルを置いた。金属質の壁に囲まれて殺風景な他は、なんら地球の家庭と同じだ。そこではロザリオが、タツオ君には聞き取れないようなわれわれの星系の言語で母艦と会話した。といってもこの母艦にだれかが乗っていたわけではない。母艦そのものも人工知能だけで制御されているためだ。

「今何て言ったの?」ソファーの肘掛けに足を投げ出したタツオ君が何の気なしに質問した。
「母艦に到着予定を知らせたのだ。およそ三日後」
「あいかわらず早いな」
「これでもゆっくりだ。ジャンプするわけでもないしね」
「ああ、あれだけはごめんだな、一度ピーチに連れられて太陽系外へ出た時経験したけど、いろいろなあり得ないものが見えて、何だか酔いそうになる」
「重力はちょうどいいかい?地球と同じにしてあるんだが」
「全く違和感ないね」
「低重力が楽なんだが、地球へ帰った時苦労するからね、それに今回は長期だし」
「本当にただの旅行だったら良かったんだけどなあ」
タツオ君は不謹慎だとは感じつつも、楽しげな希望を口にした。
「真っ暗な宇宙旅行でも楽しいのかい?」
「星の付近まで行けばね。そりゃあ道中は地球の旅行の方が楽しいさ、窓の外の景色が変わるんだから」
「他の星に下りればもっと楽しいんだけどね。地球近辺の星だと船外に出られないからね」
「ぼくら地球の人間からするとあまりに遠すぎるんだよ、知的生命がある星が。そう思わないかい?」
「無理もないさ。自力でそこまで行けないのだから。でもそれは昔、海外の国々が遠いと嘆いていたのと同じさ。いずれは身近になる。その前に絶滅しなければの話だけれども…」
「絶滅…するのか?」
「わからない。して欲しくはないと願っている」

タツオ君はロザリオが本当にその答えを知らないのか怪しんだが、僕たちが絶対に未来を限定した言い方をしないことを知っていたために、それ以上の質問はしなかった。

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