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彼岸のドライブ [絵画作品紹介]

日本には彼岸といって、春と秋に一回ずつ、亡くなった人間の霊を供養する習慣がある。僕はタツオ君とサキちゃん、サトくんといっしょに、タツオ君の親戚の家々の仏たちの供養に同行した。春の温暖な大気の中で、車の窓は開け放たれ、激しく吹き込む風にひげを震わせながらドライブするのは、気分が良かった。林道を走り、ひっそりとした沼のほとりを抜け、強いピンクが印象的な桃の花が数十本も咲き乱れる民家を眺めたりした。やがてあたりが平坦にひらけてくると、そこは田んぼが広く連なっている土地だった。まばらに建つ民家のうちの一軒がタツオ君の母方のお婆さんの家で、僕らの到着を小柄で気のよさそうなおじさんとおばさんが迎えてくれた。

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▲無題

百歳ちかいお婆さんは、もうほとんど寝たきりで姿を現さなかったが、この家には、どことなく長寿を育むようなのんびりとしたオーラがあった。おじさんという人は大の猫好きで、しかも老齢の猫を飼い、僕のこともしきりにかまってきた。僕のことを猫だと思って接してくる人に対してはリアクションに困ってしまう。ニャアとでも言えばよいのだろうか。そして本物の猫はといえば、素知らぬふりをしながら、ちら、ちらとこちらを窺っていた。どうも僕が猫ではないことには気づいているようだった。サトくんはどういうわけか、猫を怖がって逃げ回っていた。

「どうしてピーチは怖くなくて、うちの猫が怖いんだ?」
とおじさんがからかった。
「だってピーチは宇宙人なの!」
サトくんが涙声で言い返した。
「宇宙から来た猫なのかあ」
と言ってみんな笑った。
「言っとくけどピーチ本当に宇宙人だよ。」
とサキちゃんが小声で言ったので、少しドキリとしたが、それきり話題は猫から先日のTV番組の話へと移っていった。
そんなものだ。

その日はドライブしながら、色々な人に会ったのだが、みな優しい、善良な地球人ばかりだった。そして、タツオ君の性格にみられるある種の純粋さは、ある程度遺伝だということもわかったし、地球人の何たるかを、多く学べたような気がする。彼らに出会って、地球の未来は明るいと、また言えるような気がした。

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