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開拓期の思い出 [絵画作品紹介]

春だというのに山里は冷気につつまれていた。宇宙科学研究所(タツオ君のアトリエ)のつぎに僕がこの家で好きな場所はキッチンだが、椅子にうずくまってうつらうつらしていると、手足の先が冷たくなってきて、ずっと窓が開いていたことに気がついた。

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▲太陽人9-0-10-10

眠りが始まるときは、肉体の機能の一部が静止して、遠い過去や未来がはるかに見通せるものだ。
ぼくがはじめて地球と関わった、およそ一万年以上前のプロジェクトを思い出す…。

今は南米と呼ばれるその地では、僕たちエイリアン主導の文明が創られていた。その時はまだ、地球で僕たちが暮らすために混沌とした努力を続けていた本当の開拓期で、地球人と直に交流していた。いや、むしろ僕たちが地球人に崇められていたというべきか…。野蛮ではあったが、今よりもなお純粋だった彼らは、未知のエネルギーを自在にあやつり、天空を飛行する僕たちを見て、神だと慕った。僕たちも喜んで技術やひらめきを与え、現代では到底不可能とされることがらを可能にする、桁違いの科学を披露した。これらはやがて、幼児のような地球人たちすら利用するところのものとなっていったが、結局ひとつの試みにすぎず、僕らは一旦地球を去った。そして自然のなりゆきとして、この文明は消滅した。今でもマヤ、インカなどの文明として知られる情報の中に、その名残があるが、本質にはかすってもいない。僕らの残した痕跡の大部分はさらに遠い、旧石器時代の遺物として、地下深く眠っている。僕らは地球人たちとともに地下をも開発した最初のグループだった。現代の文明はそのあと、数千年の年月を経て、地球人主導で地上に築かれた、全く別の文明である…


シンクをガチャガチャ鳴らしながら、マコさんが洗い物をはじめた。ちいさなサトくんはこたつで眠ってしまった。今日も、夜がこの山里を覆い尽くす時間となったのだ。タツオくんは研究所から出てこない。いつ終わるのか疑わしいほど、橋の再建設工事はまだ続いていて、今夜も黄色い光がクルクルと回転しながら川べりを照らしていた。


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