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春の椿事 [写真]

穏やかであたたかい日だ。タツオ君は宇宙科学研究所でのんきにアイスクリームを食べている。

普段は一日に決まった人が数人しか通らないような、タツオ君の家の裏の道を、今日は朝から二千人をこえるかと思われる人たちが歩いた。実はこの道は数年前から、鉄道会社が年一回開催するハイキング大会のコースになっているのだ。だから、この日だけ、小さな山里の人口がどっと膨れ上がる。高齢者がそのほとんどだが、中には小学生くらいの子もついてきている。2~3時間ほどもかけて行列が通過してしまうと、またもとの静けさがもどってきて、まさに春の椿事であったと思わされるのだ。

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手入れも行き届かない、雑然とした庭の片隅に、タツオ君のお母さんが好きだった水仙の花が、今年も咲いた。僕はタツオ君のお母さんには会ったことはない。僕が地球に来る一年前に亡くなったのだ。そしてタツオ君も両親の話は一切しない。だが、タツオ君が水仙の花を眺めるとき、僕の額の裏のスクリーンに、とても優しそうなひとりの女性が映るので、それとわかるだけだ。

地球では親子の絆は、兄弟よりも強い。いずれ説明することにもなろうが、僕らの星ではその逆だ。というのも何から生まれたかということはあまり問題ではないからだ。生命の誕生の仕組みそのものが、地球と僕らの星では異なるとだけ言っておこう。

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春の訪れ [写真]

今日は暖かい日になった。
ずっと昔から、そうタツオ君のお父さんやお母さんが生きていたころから毎年この季節になると美しい姿を見せる福寿草が、今年も咲いた。

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タツオ君はこの花が咲くと、春までもう少しの辛抱だと思うという。

タツオ君は冬になると、地球人が「うつ病」と呼んでいる症状が起こることがある。今年はいろいろな環境の変化もあってか、大変な苦しみ方だった。身辺整理をして遺言めいたことを言ってみたり、精神科の情報を検索して頭を抱えたり。生きていること、粗野な地球人の間で、社会人ぶっていなければならないことは、意識の覚醒した者にとってそのまま地獄だ。しかし僕は表面上打ちのめされた彼の深奥に、さらに強い生命の炎が燃えているのを見ている。彼は何も失ってはいない。そして彼が苦しみを浄化してゆく過程そのものが、地球の内部にたまった膿を排出することになるのだ。地球には彼のように苦しみを自覚するピュアな人間がもっと必要なのだ。問題を論じて何もしない人間こそ愚かだ。問題に素手で取り組んで、傷つきながら克服してゆくものは、世界を変える。こののち数年は、タツオ君のような「星の子」たちにとっても、もっとも辛い季節になるだろう。地球が生まれ変わろうとしている。いや、あなた方地球人が、生まれ変わらせなければならないのだ。

あなた方に言いたい。

心を静かに、開いてください。戦わず、われ先にとあわてず、よく見てください。つまらない勝負に勝とうとせず、勝負そのものを疑ってください。だれかの仕掛けた罠の中で、操られていることに気づいてください。耳を澄ましてください。真実をねじ曲げないで、理解してください。崖っぷちに立っているのがわかりますか?そしてすぐそばに我々がいることが感じられますか?我々の仲間は宇宙の彼方からもあなた方を見守っています。タツオ君に僕がいるように、あなた方のもとへも、条件次第で出向くことが可能なのです。我々がいつでも手を差し伸べていることが、あなたにも見えたなら!

夕暮れが近づいてきた。今夜はどんな夜になることだろう

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宇宙科学研究所の中 [写真]

僕がタツオ君の家で居心地がいいと思っているのは、やはりなんといってもタツオ君のアトリエ、「宇宙科学研究所」だ。アトリエなんだか書斎なんだか子供部屋なんだかわからないけれど、日当たりが良くて冬でも暖かい。特に今日はいいですねえ。ぽかぽかしてる。研究所の中は、こんな感じだ。雑然としているが、タツオ君というひとりの地球人の精神性が顕れているのが面白い。よくここの本で地球のことを観察する。

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サキちゃんのこと [写真]

僕が地球に着陸したのはおよそ5年前で、その時僕の乗った宇宙船を見つけたのは、タツオ君ではなくてサキちゃんだった。その時サキちゃんはまだ小学校1年生。図書館で星座とか宇宙の本を読んでいるような変った女の子だった。ある春の日、サキちゃんは庭に出て夜空の星を観察していたんだけど、僕はそこをめがけて着陸した。もっともサキちゃんは「ピーチが墜落した日」と言って聞かないが。まあ無理もないんだけど。つまりスピードが速かったのでとても着陸には見えなかったってことらしい。サキちゃんの目にはちょうど隕石が大気圏に突入した時のような状態に見えていて、それがどんどん自分のほうに近づいてくるのだから、さぞかしびっくりしたことだろう。もちろん地面ぎりぎりで減速しているし、安全に着陸したのだが、まるで降ってきた隕石を装うかのように僕は宇宙船から出なかった。サキちゃんの次の行動を伺った。宇宙船は縮小化して小型のクッション程度になっていた。サキちゃんは宇宙船を両手で抱えあげ、「UFOが落っこちてきたよ~」と叫びながらダイニングテーブルまで運んで行った。着陸時の閃光に気づいていたママのマコさんとサト君もかけつけ、なんとか宇宙船をこじ開けようとしはじめた。こういう恐れを知らないあたりがこの家族の面白いところだ。しかしタツオ君が帰るまでは僕は宇宙船から出なかった。やはり地球外人種に対する直覚的、経験的な理解を備えた人間のいないところへ出るのは危険と判断したからだ。一時間後、仕事から戻ったタツオ君が「なんだ宇宙船か」とつぶやくと同時に僕はシールドをオープンにした。「猫だ!」と予想されつくした反応を跳ね返すべく、僕は言った。「猫ではありません。人間です。」そう日本語で。

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それから僕とこの家族が慣れ親しむには時間はかからなかった。僕はしゃべったし、二本足で立ったし、僕らの文化の話もした。特にサキちゃんには質問攻めにあったけれど、ともに宇宙船で旅行することで、自分なりに謎を解きほぐしていったようだ。あっという間の5年間だった。3歳だった小さなサト君も今は僕がサキちゃんと初めて会った時と同じ1年生だ。地球の時間は本当に早く流れる。

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次回はサキちゃんのエピソードの2回目を語ろうと思う。
では。


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