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暗黒の二年間 22 [音楽]

神流町の恐竜センターまで大した距離でもなかったが、着いたころにはサトくんが居眠りを始めていた。
「サト、サト。着いたぞ。恐竜だぞ、起きろ」
タツオ君はサトくんを揺すぶってみたが、眉間にしわを寄せているだけで目を覚まさない。
「おとうちゃん、サトかわいそうだよ。あたしも疲れた」
サキちゃんまでがそう言う。
「そしたら昼寝してから行こうか」
「もう恐竜なんていいよ、帰ろう」
「でも一見の価値はあるらしいよ」
「おとうちゃん一人で行ってきて」
ひと眠りもすればすぐに元気になるという当たり前の展望が、幼い子供には持てないのだ。
確かに不二洞であれだけの距離を歩いて、郷土玩具館であれだけ笑い転げれば疲れるだろう。タツオ君もそう頭では理解できるものの、今日ばかりはあきらめられないのだった。



結局、昼寝をしてふたりとも元気を取り戻したものの、サキちゃんなどは、
「えー、まだ恐竜センター?帰るんじゃなかったの?」と不平までもらしたが、しぶしぶ車を降り、入館するに至った。場内は本物の化石が沢山あって、タツオ君だけは「すごいなあ。でかいなあ」と本気で感心していた。ところがサキちゃんとサトくんは、足早に先をいそぎ、さまざまな展示物の前をただ通過していた。(子供って恐竜、好きなんじゃなかったけ?)タツオ君は考えたが、子供の興味というものは常に気まぐれであったり、時に恐ろしく狭く限定されているものなのだ。二人とも家に帰ってゲームでもしたいのだろう。こうなるとタツオ君もお手上げだった。二人を追って足早に館内をまわり、車に戻った。
「本当に、しょうがない奴らだな、帰るぞ」
「やったー!!帰ろー!!」と今度は合唱。

峠道を下ってゆく時は、今度はタツオ君が疲れてしまった。激しいカーブの連続で、腕が痛くなってきたのだ。逆に子供たちは騒ぎ始めた。難しいものだ。

秩父市の、広い駐車場のあるコンビニエンスストアでタツオ君は車をとめた。
「サンドイッチかなにか食べるか?お腹すいたろ?」
「サキ、コロッケがいい」
「よし、コロッケな、サトは?」
「タトはいい」あいかわらずサシスセソが言えてない。
「お腹すかないのか?」
「サトはお菓子ばっか食べてるんだもん」サキちゃんがたしなめるように言った。
「おとうちゃんも疲れたでしょ。食べて少し寝たら?」
いつのまにかサキちゃんも、そんな気遣いをするような歳になっていたのか…。

車の中でタツオ君は本当によく眠った。目が覚めた頃には陽は西に沈もうとしていた。たくさんの赤とんぼが、童謡よろしく夕陽に染まっているのが見えた。
「さて、長瀞の川沿いを走って帰ろうか」タツオ君が言った。
「帰ろう」サキちゃんが答えた。サトくんは再び寝息をたてていた。

そんな風に、2009年の夏の日が終わっていった。

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