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暗黒の二年間 30 [音楽]

それは地球人女性の出産にたとえるなら、一種の「早産」とも言える事態だった。


Tom Petty - Learning To Fly 投稿者 samithemenace

イラスト原稿の入稿を終えた僕たちは、会社で残業後の徹夜という凄まじいスケジュールの後で疲れ切っていた。寝室に入ると気絶するように倒れ込んだ。異変が起こったのはその時だった。
例えようもない、制御できない力によって僕はタツオ君の意識下にある静かな小部屋のようなところから、無理やり吸い出されるような状態に陥り、どう意識を集中してもそこにとどまることが出来なくなってしまった。タツオ君の精神があまりの消耗のため、一種の自己閉塞状態になってしまったためだ。こういうときに脳と神経系は、手近にある魂ならば何でも利用してしまうように出来ている。生存本能なのだ。古来よりよくある狐憑きなどの憑依現象は、このために起こる異常現象なのだ。だがこの場合は違った。一番手近にいたのが僕だったからだ。そして適切なコントロールが出来ないまま、僕はタツオ君の肉体の支配者となってしまったのだ。それは胎児が発育不全のままこの世に生まれてきてしまったのと同じ状態といえた。

状況を把握した僕は、ほとんど恐慌に近い状態に陥った。
「タツオ君!タツオ君!目を覚ましてくれ!」
僕は叫んだ。閉塞したタツオ君の意識にアクセスするだけなのに、声に出してそう叫んでしまった。急に立ち上がり、足をもつれさせて近くにあった家具に顔面をぶつけてしまった。激痛が走った。
(まずいぞ、これは…最高にまずい…)
「タツオ君!タツオ君!」僕は尚も大声で叫んでしまった。
台所で朝食を作っていたマコさんが、何ごとかと走って来た。状況を見るなり顔色を変えたマコさんは、「鼻血!どうしたっていうの?」そう言いながら僕を再度床に就かせた。ティッシュペーパーで血を拭ってくれるのだが、止まらないらしく、それが鮮烈な赤色の山を形作ってゆくのだ。
「マ、マコさん…!!まずいんだ…、タツオ君が…タツオ君が…」
「何を言っているの!タツオさんはあなたでしょう?」マコさんの声が震えているのが分かった。あきらかに異常なこの状況を、一体どこの地球人が理解し得よう?
「おとうちゃんどうしたの?」
マコさんの背後からサキちゃんとサトくんも心配そうに顔のぞかせた。しかしその時の僕は、子供たちにさえ掛けてあげる言葉が見当たらなかった。

そしてマコさんに付き添われて休むうちに、耐えがたい睡魔が襲ってきた。眠っている場合ではないというのに、信じがたいほどの猛烈な眠気なのだ。そして意識は何者かに吸い込まれるかのように遠のいていった。

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コメント 4

haku

おぉ~、急展開ですねぇ!!
波乱の幕開けですね!
憑依現象って、なるほどそういう事か...
by haku (2011-09-01 08:06) 

peach

★hakuさん、ありがとうございます。
やっぱりサクサクとは進まなかったですね(笑)
この物語では、肉体がいかに魂の入れ物に過ぎないか、
ということを強調しています。そのためにウォークインという
シチュエーションを細かく描いているのです…。
by peach (2011-09-01 11:32) 

DEBDYLAN

TOMカッコいいっす♪

by DEBDYLAN (2011-09-03 00:24) 

peach

★DEBDYLANさん、ありがとうございます。
この人は独特の魅力がありますね~。
曲も素朴で気取ってないところが好きです。
by peach (2011-09-03 04:13) 

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