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暗黒の二年間 44 [音楽]

「おい…一体どうしちゃったんだよ」そう言って部長がタツオ君の肩をたたく。周りに誰もいないのを見計らってのことだ。
「あ…部長…」
「今日も具合悪そうだなあ」
「あの、部長…」
「何だ?」
「僕…やっぱり病気だったみたいです…」
「病気?なんの病気だ?」
「それが…精神科にまわされちゃったんですよ、それで病気だと…」
「うつ病か?」
「いや、もっと厄介な病気でしたね」
「厄介って…、単なる物忘れじゃないのか?」
「いや、あの時だけじゃなくて、家でも大騒ぎしたらしいんですけど、その時のことを全く覚えてなくて…」
「じゃあ、薬のせいでそんなになってるのか?」
「ええ、副作用がきつくて…それよりいろいろ迷惑かけてすみません。」
「いや…そんなことは気にしなくてもいいんだが…」
いくら普段口うるさい上司でも、さすがに病人を相手に日頃の接し方はできなかった。



「おれもかつて総務の責任者をしていたことがあるんだ」部長が会話を再開した。
「それでいろんな人間を見てきたんだよ。お前みたいになった奴も中にはいたんだがな…、やはり薬を飲み始めてしまうと仕事はダメだよな…。判断力が鈍るし、薬でちゃんと立ち直れたってケースも無かったな。」
「そうですか、でもどうすれば良いのか…」
「できるなら薬をやめることだ。まさか選りによってお前がそんなになっちゃうなんてなあ…」
部長はそれなり、口をつぐんで、パソコンの画面に見入ってしまった。
最も目を掛けて、側に置いていた部下がこのような状態になってしまうのは、実際やりきれないことだった思う。幾分屈折してはいたが、職業人には職業人なりの愛情があったということなのだろう、この時彼は本当に悲しそうに、それでも無理に微笑んだ眼差しをタツオ君に向けていたのだった。

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yu-papa

タツオ君と上司の会話は、とても分かりやすく・・・・
タツオ君を私自身に置き換えて、読ませてもらいました。

最後に、いつもご訪問くださり感謝しております。
by yu-papa (2011-09-17 21:31) 

peach

★yu-papaさん、ありがとうございます。

そうですね。こういったシチュエーションが世界の至る所で起こっているのだと思います。現在のところ重苦しい場面が続きますが、その提示だけが目的で書いているわけではありませんので、今後の展開の中から、真の主題は何かを読み取っていただければと思います…。

こちらこそ、いつもありがとうございます。
by peach (2011-09-19 00:24) 

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