暗黒の二年間 8 [音楽]
しかしやはり、躊躇する気持ちが残る。
僕は話し出さないまま、ただ窓から差し込む朝日を見つめながら目を細めていた。
するとタツオ君が、わざとらしいほど大きなため息をひとつついてから言った。
「ずいぶんと長い前置きだったじゃないか…」
僕はギクリとした。僕の心を読んでいる。この人はもうそういうレベルに達していたのだ。
今話してしまわなければ、次のチャンスはいつになるか分かったものじゃない。
僕はついに踏み込んだ。
「タツオ君───。君の身体を、僕にくれ…」
そして、しばしの沈黙が流れた。
「イエス、サー」
冗談めかした言い回しとは正反対に、タツオ君の表情からは一切の輝きが失われており、
研究所の床の、それこそ何もない一点を、ひたすら凝視しているのだ。
「君に、ウォークインする」
「アイ、アイ、サー」
指の先から頭の天辺、はては視線までも微動だにせぬまま、タツオ君は答える。
その顔がひどく青ざめて見えるのも、気のせいなんかである筈がない。
「タツオ君…もう君が君としては生きられなくなるということなんだぞ。そればかりか、マコさんや、サキちゃんや、サトくんの前からも、君という人格は消え去ってしまうんだぞ。それでもいいと君は言っているのか!」
僕は泣き出してしまった。地球に来て以来、泣いたのはこの時がはじめてだった。
「いいんだ、ピーチ。おれはそれでいい。おれに出来ないことを、代わりに君がやってくれるというなら…。2012年までにやらなければならないことが、それで達成されるなら…おれはそれでいい」
タツオ君は失敗作のような笑顔を作って見せた。
僕はまるで子供のようにしゃくり上げ、もう何一つとしてまともな発音では、ものを言えなくなっていた。
それから二人ともだまりこくって、お互いに気持の整理がつくまでには、とても長い時間が経過したような気がする。
日光は次第にその強さを増し、あぶら蝉が鳴きはじめ、僕ら二人の身体にも汗が滲み始めていた。
Follow @SilentTown
僕は話し出さないまま、ただ窓から差し込む朝日を見つめながら目を細めていた。
するとタツオ君が、わざとらしいほど大きなため息をひとつついてから言った。
「ずいぶんと長い前置きだったじゃないか…」
僕はギクリとした。僕の心を読んでいる。この人はもうそういうレベルに達していたのだ。
今話してしまわなければ、次のチャンスはいつになるか分かったものじゃない。
僕はついに踏み込んだ。
「タツオ君───。君の身体を、僕にくれ…」
そして、しばしの沈黙が流れた。
「イエス、サー」
冗談めかした言い回しとは正反対に、タツオ君の表情からは一切の輝きが失われており、
研究所の床の、それこそ何もない一点を、ひたすら凝視しているのだ。
「君に、ウォークインする」
「アイ、アイ、サー」
指の先から頭の天辺、はては視線までも微動だにせぬまま、タツオ君は答える。
その顔がひどく青ざめて見えるのも、気のせいなんかである筈がない。
「タツオ君…もう君が君としては生きられなくなるということなんだぞ。そればかりか、マコさんや、サキちゃんや、サトくんの前からも、君という人格は消え去ってしまうんだぞ。それでもいいと君は言っているのか!」
僕は泣き出してしまった。地球に来て以来、泣いたのはこの時がはじめてだった。
「いいんだ、ピーチ。おれはそれでいい。おれに出来ないことを、代わりに君がやってくれるというなら…。2012年までにやらなければならないことが、それで達成されるなら…おれはそれでいい」
タツオ君は失敗作のような笑顔を作って見せた。
僕はまるで子供のようにしゃくり上げ、もう何一つとしてまともな発音では、ものを言えなくなっていた。
それから二人ともだまりこくって、お互いに気持の整理がつくまでには、とても長い時間が経過したような気がする。
日光は次第にその強さを増し、あぶら蝉が鳴きはじめ、僕ら二人の身体にも汗が滲み始めていた。
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「FREE BIRD」痺れますね♪
by DEBDYLAN (2011-07-17 11:51)
★DEBDYLANさん、ありがとうございます。
数ある動画の中でも、風に吹かれて歌っているこの
映像が気に入ったのでアップしました。
演奏も一番長めです。
by peach (2011-07-17 12:10)
タツオ君、本当に大丈夫なんでしょうか?!
この先どうなるんでしょう...楽しみです♪
しかし、レーナードス・キナード、渋い選曲ですねぇ!! ^^
by haku (2011-07-17 20:57)
★hakuさんどうもありがとうございます。
第一部のなかでも、男の悲しき決断を描くこのパートに、
どんな曲がふさわしいか迷いましたが、
感極まる個所があるので、名曲中の名曲、
Free Bird を早くも使ってしまいました。
それと今日うれしいことがありました。
名前は言えないんですけど
有名な作家の先生から、
ブログ他の活動に対し激励とアドバイスを
頂けたんです。がんばろう!と思いました。
by peach (2011-07-17 23:02)