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静かに光輝く海2 [絵画作品紹介]

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▲無題

(前回からの続き)

「実はきみはロザリオに会っている。彼はあの晩この家まで来たんだ。」
と僕は言った。タツオ君は心底驚いているにも関わらず、それを顔には表わすまいと、またビールを一口飲んで、言った。
「記憶にないが。また消されたのかな。」
「人聞きの悪い。僕がいつ君の記憶を消したんだ?被害妄想もいいところだ。」
「ならどうやって会ったんだ。本当に全然覚えてないぞ。」
「でも夢を見ただろう?」
「え?」
「夢だよ。」
「夢だって?」
「そうさ。思い出せ。あの晩どこにいる夢を見た?」
タツオ君はしばらく考えていたが、すぐに驚いたように僕を指差して言った。
「海だ!」
「そう。どんな海だった?」
「夜の海だ。僕は陸地に立っている。それで、海は月を反射して輝いている、静かな海だった。そうだ、それだけなんだけど、すごくいい夢だったんだ。」
「そうだ。その海がロザリオなんだ。そしてきみは陸地に立っているのではなく、陸地そのものがきみだ。海なくして陸は存在せず、陸なくして海は存在しない。きみはあの晩、ロザリオとともにいたんだ。」

僕はタツオ君に、ロザリオがめったに、肉体をもって地球に現れたがらないこと、言い方を変えれば、いつ出会ったのかわからないくらい、精妙な存在であることを伝えた。そして、心が研ぎ澄まされるとき、いつでもそばにいるということも。

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タグ: 絵画 地球
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